建築家と建てる贅沢な注文住宅 - オープンシステム

神奈川・みさき

コストダウンは品質ダウンではない
思い通りの家を建てるための
コストダウン術


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     長男夫婦の和室             次男夫婦の和室


理想の家を建てるのに、目の前に立ちはだかるのが「予算」の壁。
限りある予算のなかで、いかに建て主の希望を叶えるかが
建築士の腕の見せどころ。

神奈川県川崎市のみさき建築研究所の代表、御前(みさき)好史さんは「ローコストで高品質な家」をテーマに、住宅建築に取り組んでいる。2軒の住宅を例に、その秘訣を公開してくれた。


神奈川県 若林さんの家&古谷さんの家
■設計監理/みさき建築研究所/御前好史(みさきよしふみ)/神奈川県川崎市
■撮影/A.K.A.
■取材/弘中百合子・武藤昌一 記事/弘中百合子






Case1  神奈川県 若林さんの家

建具をなくしてコストダウン
扉の代わりにカーテンで仕切ったら
開放感のあるワンルームに


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「建築士に頼んだ方が、費用を抑えられるなんて」

御前さんが最初に案内してくれたのは、神奈川県平塚市にある若林久人・いずみ夫妻の家。
 
玄関を入ると細長い土間になっており、土間には3台のマウンテンバイクが飾られている。土間をあがると1階は広々としたワンルーム。フローリングの床に白い壁。収納家具がほとんどない、非常にすっきりとしたお宅である。
 
若林さん夫妻が家を建てようと計画したのは、今から1年半ほど前のこと。まだ若い若林夫妻が用意できるお金は2000万円が限度。でも、建てるからには機能的でいい家にしたい。ハウスメーカーの家なども見に行ったが、「いい家だけど、よくある感じだし、しかも高かった」ので気乗りがしなかった。

そんな時、いずみさんの父親、雫石利一郎さんがインターネットでみさき建築研究所のホームページを見つけた。これまでの建築事例などを調べ、ここなら予算内でいい家を建ててくれそうだと思い、早速連絡をとった。

「建築士さんに頼んで設計してもらったほうが費用が抑えられるなんて、すごいですよね」(いずみさん)


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玄関に続く広い土間はご主人の一番のお気に入り。趣味のマウンテンバイクを飾って収納。愛車の手入れをしたり、タバコを吸ったり、ここで過ごす時間も多い。




凹凸をなくしてコストダウン
シンプルな外観で、
建築費もメンテナンス費も節約


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外壁は窯業系(セメント系)サイディング。エントランスの庇や上下窓のつなぎ部分には特注のステンレス板を使用。地面は砕石を敷き詰めるだけにしてコストを抑制。



CM分離発注方式で 建築費が1~2割も安く

「コストダウン」というと、安上がりにすませる…という印象があるが、「コスト(費用)とプライス(価格)は違うんです」と、御前さんは言う。

「プライスというのは、こういう仕様でこういう値段で…という表面的なもの。建て主の生活の仕方や、使い勝手、まわりとの調和などを考え、どんな材料を使うのか、どんな形にするのかなど、さまざまな方向から検討して、そのうえで値段がこうなると提案するのがコスト。だから、コストダウンは品質を落とすことではない。建て主と建築士が協力すれば、ローコストで高品質な家ができるのです」

コストダウンができた一番の要因は、CM分離発注方式を採用したこと。これは、建て主が直接専門工事業者に発注する方式で、ハウスメーカーや工務店などの業者を介さない分、中間マージンを省略することができる。同じ設計をもとに標準的な材料を用いて建てたとすると、CM分離発注方式では、一般的な工務店よりも10~20%建築費が安くなるという。

「専門工事業者に発注するといっても、専門的なことは、建築設計事務所がすべて代理で進めていきます。値段が合わない場合は、複数の業者から見積もりを取って検討することで、よりコストを抑えることができるのです」(御前さん)


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建て主の若林久人さん(33歳・ケアマネージャー)と、
妻のいずみさん(31歳・メディカルソーシャルワーカー)。



内部の間仕切りを少なく 外観の凹凸も少なく…

 
品質を落とさずにローコストな家をつくるには、内部の間仕切りをなるべく少なくするのが秘訣だと御前さんは言う。そうすることで、構造材や下地材だけでなく仕上げ工事の面積も減らせるのだとか。
 
実は若林邸も、1階にある建具は、トイレのドアと、階段脇の扉だけ。ダイニングと居間、居間と土間は、それぞれカーテンで仕切る形になっている。みさき流コストダウン策の一環なのだが、そのカーテンが逆に個性的でおしゃれに感じられる。
 
若林夫妻が出した一番の要望は「夏涼しく、冬暖かい家にしてほしい」ということだった。屋根を外断熱、壁を内断熱にし、床暖房を入れているので、間仕切りのない広いワンルームは、冬も十分暖かい。

若林邸のモダンな外観も、実はコスト面を考えた上でのこと。外壁の凹凸をなるべく少なくすることも、工事費を安くするコツなのだという。

御前さんは、外観をシンプルにするとともに、材料もシンプルでコストがかからず、メンテナンスが楽なものを選んだ。地面も砕石を固めただけ。一方で、玄関まわりにガルバリウム鋼板を用い、玄関前に塀を設けるなど、建物にアクセントをつけて個性を出した。

「もちろん、家は住む人の生活、考え方に合わせたものでなければなりません。自分のこだわりたい部分にはしっかりお金をかけ、そうでない部分はシンプルに合理的にすませる。どこにお金をかけ、どこを合理的にするかは、何度も話し合いをし、建て主の考えをきちんと把握することが大事だと思います」(御前さん)


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(写真左)底面が平らな大きめの陶器をメラミンカウンターに落とし込んだ洗面所。
コストは安くすむが、使いやすいと好評。
(写真右)対面式キッチン。
システムキッチンの棚を後ろに持っていくことでカウンター回りがすっきり。



オール電化のエコな家で 光熱費も削減

 
コストを抑えるために、建て主側も頑張った。隣の敷地に住む両親も協力し、シロアリ防除のための防蟻工事や、木部のオイルステイン塗りなどは自分たちで行なった。
 
結果的に若林さんが家の建築にかかった費用は2100万円。外溝工事や追加工事などで多少余分にかかったものの、ほぼ予算内におさまった。夫妻の家への満足度は「五つ星」だという。


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トイレをのぞけば、1階に唯一あるのがこの扉。後ろは物入れ。建具は部屋にあわせてすべて御前さんがデザイン。予算に合わせて工夫をこらす。






Case2  神奈川県 古屋さんの家

一緒に住んでコストダウン
3世帯それぞれのこだわりを
一つ屋根の下で実現


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子世帯が家を持つための 現実的な選択肢

もう1軒、神奈川県平間市に御前さんが手がけた家を訪ねた。1階に両親、2階・3階に長男夫婦と次男夫婦が住むという珍しい3世帯住宅。住宅街のなかで、ひときわ大きく、ガルバリウム鋼板のしゃれた外観が目を引く古屋邸である。

御前さんは、2世帯住宅を積極的に手がけている建築士だ。2世帯・3世帯が一緒に住むことは経済的に非常に有効だと言う。

「バブルの時期に比べて土地の値段が下がっているといっても、家づくりにおける費用のウェートはまだまだ大きい。仕事や暮らしに便利な地区の土地は容易に手に入りませんから、複数の世帯が集まって家づくりを行なうというのは、子世帯が家を持つために、特に首都圏では必然的だと思います。子育てにおいても、子どもの発熱時など、緊急時に親に面倒を見てもらえるのは心強いし、将来の親の老後を考えても安心。複数の世帯が集まって、耐久性のある家づくりを行い、代々子孫に伝えることができればとても意味のあることだと思います。現在では娘夫婦と同居する、いわゆるパラサイトダブル型の2世帯住宅も増えています」
 
しかし、古屋家のように長男夫婦、次男夫婦と両親が一緒に暮らす3世帯住宅は珍しい。どういう経緯で一緒に住むことになったのだろう。


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(写真左)古屋一家。手前が古屋久正さんとまつ子さん。後ろ右が長男夫婦で、正義さんと恭子さん。左が次男夫婦で、由紀夫さんと方子(もとこ)さん。
(写真右)両親が飼っている老犬Bさん。この日は長男夫婦の家でお昼寝。



「弟達はすでにマンションを買っていたので、最初は築40年の親の家を壊して2世帯住宅にするつもりでした。でも、せっかくだからと弟にも声をかけたら、住んでいるマンションが売れたら話にのりたいということに」(長男・正義さん)

「マンションに住んでいると、やっぱり一戸建てへの憧れがあるんですよね。ここは、駅にも近いいい場所なので魅力的だったんです」(次男・由紀夫さん)
 
正義さんと由紀夫さんは、年齢が9歳離れていることもあって、「ケンカをした記憶がない」というほど仲がいい兄弟。由紀夫さんのマンションが売れそうだとわかった時、正義さんは涙を浮かべて喜んだという。


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(写真左)両親の家のリビング・ダイニングルーム。家全体がバリアフリー。
(写真右)寝室のそばにあるトイレ。車イスになっても利用できるよう、洗面所との仕切りをなくした。客用のトイレは別にある。


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将来、手すりをつけることも考慮して、壁の下部は板にした。



準備期間だけで約2年 研究を重ねて選んだ方法

 
3世帯住宅をオープンシステム(CM分離発注方式の1つ)で建てようと提案したのは、兄の正義さんだ。

「家を建てる前の準備期間がすごく長かったんです。2年間ぐらいは家づくりについて勉強していました。シックハウスとか、欠陥住宅とかいろいろ研究した結果、建築士に頼むのが一番いいと感じました。我々のコンピュータ業界でも、若いエンジニア達は、つくる側の理論で仕事をする人が多いんですが、使う側の目線で物を考えないと失敗してしまう。家をつくる側でなく、建てる立場でやってくれる専門家っていうと、建築士しかいないと思ったんです」

さらに本で知ったオープンシステムに理論的に共鳴。オープンシステムを採用している建築士を探した。

「4人の建築士さんとお見合い(注1)して相性のいい人を選びました。質問事項をたくさん書いて、これについてどう思われますかって、恐れ多くも家族みんなで面接したんです」

住宅建築に関する持論、なぜ建築の道に入ったのか、どんな建築が得意分野か、健康住宅への考え、家づくりの最重点実施項目、お勧めの間取り、災害対策…など、直接いろいろ質問することで、納得して建築士を選ぶことができたそうだ。

御前さんに決めたのは、これまでに建てた建築物が自分達の好みに近く、一番親身になってくれそうに見えたからだという。


(注1)【お見合い】分離発注を行う設計事務所と家づくりをしたいが、誰に相談すればいいかわかわない。そういう方のためにオープンネット㈱が運営するインターネットの掲示板を活用したシステム。建て主にも設計事務所にも費用は一切かからない。


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長男夫婦の家(リビング)




建て主自身も動いてコストダウン
壁に柱に梁に建具・・・
できる塗装は前部自分で



一軒の家に生まれた 個性豊かな3つの住宅

古屋さん一家は、その後の家づくりにも積極的に関わった。インターネットや雑誌などで、安くて良い建材や器具を探したり、壁材を安く塗ってくれる職人を自分達で見つけたり…。一番熱心だったのが次男夫婦で、仕事が終わったあと、深夜まで壁塗りや、木部のオイルステイン塗りなどをこなしていった。


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次男夫婦の家(リビング)




建築士の工夫でコストダウン
設計で費用を抑えるだけでなく
作業面でも手腕を発揮




建築士の御前さんも自ら動いた。複数の業者に見積もりをとって材料費を安くしたり、物置などコストをかけなくてもいいところはシンプルに仕上げるなど、プラン上はもちろん、オリジナルの照明をつくったり、現場の作業を手伝ったりと、実際の作業面でもコストダウンに協力した。

そうしてできあがった3世帯の住宅は、それぞれに個性的である。


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  長男夫婦の家(ダイニング)     二男夫婦の家(ダイニング)


1階の両親の家は、バリアフリー。車イスになっても生活できるように、トイレの仕切りをなくしたり、あとで手すりをつけられるよう壁を板にしたり、コンセント位置を高くしたりと、将来への備えが万全である。
 
兄の正義・恭子夫妻の家は、木を生かした明るいナチュラルな雰囲気。お風呂好きな正義さんの強い希望で、大きなジャクジーバスを備え付けた。
 
弟の由紀夫・方子夫妻の家は和風モダン。「黒と濃い茶色とステンレスが好き」という2人の趣味が生かされ、スタイリッシュでおしゃれな空間ができあがっている。


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長男夫婦の家。寒くなったら恭子さんのお父さんからいただいたお気に入りの火鉢をリビングの中央に置く。建物の中に「和」の要素を取り入れたいというのも2人の希望だった。


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長男夫婦の家。(写真左)ちょっとした隠れ家風のロフト。約7畳と意外に広い。棚には好きな雑誌などが収納されている。船舶用の丸い窓がおしゃれ。(写真右)正義さんが何よりこだわったのが大きなジャグジーバス。このお風呂はショールームで実際に入浴して選んだという。




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次男夫婦の家。部屋の中には大きなスクリーンを設置。好きな映画を迫力ある画面で楽しんでいる。時には友人を招いてスポーツ観戦をすることも。


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次男夫婦の家(写真左)ロフトに上がると大きなクッションとギターが目を引く。棚にならんでいる愛犬ニッキーの服がかわいい。(写真右)この日は撮影のために明るくしたが、ふだんは間接照明で少し暗めの落ち着いた雰囲気の中で暮らしている。



 
玄関が別なので毎日顔を合わすわけではないが、父の日・母の日の合同イベントとして3世帯合同で食事に行ったり、女性陣3人で映画を見に行ったり……と、3世帯はほどよい距離を保って仲良く暮らしている。留守中の防犯面や、親の老後を考えた時の安心感など、メリットを感じることは多いらしい。

各世帯の当初予算は2000万円~2500万円だった。見事予算内におさめたのは次男夫婦。長男夫婦と両親の家は、途中の計画変更などもあって、やや予算をオーバーしたという。それでも、妥協しないでつくった家への満足度は非常に高い。
 
親の土地を有効活用することは、最大のコストダウン術と言えるかもしれない。


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3階にあるバルコニーは、長男夫婦と次男夫婦の交流の場。間仕切りにはファイバーグレーチングのドアを設けている。ここだけは玄関を通らなくても行き来できる。






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神奈川県 若林さんの家&古谷さんの家
■設計監理/みさき建築研究所/御前好史(みさきよしふみ)/神奈川県川崎市
■撮影/A.K.A.
■取材/弘中百合子・武藤昌一 記事/弘中百合子



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