建築家と建てる贅沢な注文住宅 - オープンシステム

秋田県/加藤一成

家の設計は
建て主と建築家の
コラボレーションだ!


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柔らかい光に包まれた らせん階段の家

■建築場所/秋田県秋田市
■家族構成/夫婦+子供2人
■敷地面積/142.69㎡(43.16坪)
■延床面積/165.44㎡(50.05坪)
■構造/木造軸組
■階数/2階建(ロフトあり)


■設計監理/加藤一成建築設計事務所/加藤一成/秋田県秋田市
■取材・記事/山中省吾
■撮影/加藤一成


ガラスブロックの吹き抜けを貫く螺旋階段と
外に閉じて内に解放された光のコート……

Sさんの家には、どことなく昭和初期のハイカラな香りが漂っていました。
そして、建て主と建築家の強い思いを感じました。

 家に対する思いを
 建て主はどのように建築家に伝え
 建築家はどのように建て主から引き出したのだろうか……。

建て主と建築家のコミュニケーションはとても難しいものです。
ここが上手くいけば、家づくりの90%は成功したといえるかもしれません。

この事例のテーマは、「建て主と建築家のコミュニケーション」ですが、
始めにSさんの家の個性的なディテールの数々を紹介し、
その後で個性的な間取りやデザインができあがっていく過程を、
打合せ議事録や監理記録から読みとってみようと思います。

古い町並みに溶け込んだ
ちょっとレトロでハイカラな外観
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夜の外観は、ガラスブロックがひときわ美しい。ある夜、電信柱の看板を見た若夫婦が飛び込んできました。「先生、今からでも診ていただけますか?」どうやらこの大胆なガラスブロックは、とても個人住宅には見えないようで、産婦人科医院と間違えたらしいですね。電信柱に産婦人科医院の案内が貼ってあれば、誰でも間違えますよね。



家づくりは突然やってきた

Sさんが生まれ育ったところは、古い屋敷が連なる閑静な住宅街です。「なかなか売り土地が出ないところなので、思い切って買っちゃいました」とSさん。いったん思いついたら決断がとても早いようです。

Sさんは、もっと早い時期に家をつくりたいと思っていたのですが、なかなかタイミングがつかめませんでした。住むところをこの街に限定していた訳ではありませんが、いつも土地探しを後回しにしてきたのです。

ところが、生まれ育ったこの街に売り土地が出たと聞いたので、すぐ見に行きました。そこは2方道路に面した角地で、とても小さな土地でした。

不動産業者の説明によると、敷地は細長くて小さいけれど、1フロア最大25坪まで建築可能で、3階建てにすれば延べ床面積75坪の住宅だってできる、ということでした。

50~60坪の家が建てられるなら十分だったので、Sさんは思い切ってこの土地の購入を決めました。

こんなふうに、Sさんの家づくりは突然やってきました。

■購入した土地/DATA
敷地面積:142.69㎡(43.07坪)
用途地域:第1種住居地域/準防火地域 
建ぺい率:60%
容積率:200%

理論上は1フロアの床面積85.6㎡(25.8坪)、
延べ床面積285.38㎡(86.14坪)の建物は可能ですが……
斜線制限や採光面積の確保などいろんな規制があって、
理論通りに進まない場合もあります。(特に狭い土地では)

土地を購入する際は、事前に建築士に相談する方が賢明だと思います。
実際、この敷地も都市計画法第53条(都市計画道路)により、
構造上の制約を受けました。(鉄筋コンクリート造、鉄骨造は不可)

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■建物と一体になっている壁。奥に部屋があるように見えるが、実は、ここには屋根がない。外に閉じて内に解放された光のコートである。壁はあるけど屋根がない状態は、建築基準法上の床面積に入らないので、建ぺい率や容積率の対象面積にもならない。
■光のコートの壁は鉄筋コンクリートで考えていたが、万が一の倒壊の危険を考慮して建物と同じ木造でつくることになった。結果的に工事費もいくらか安くなった。
■「この壁があと20~30センチ高ければ、リビングから見える外の景色はほぼ消えます。でも、それだと光のコートで遊ぶ子どもたちに圧迫感を与えるかもしれません。高さを決定する時は随分迷いました」とSさん。

外に閉じて 内に解放された
1階+光のコート


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■鉄工所でつくってもらった鉄製の螺旋階段。床下にはこの階段を支える大きな基礎がある。建て方の時、最初にこの階段を建てた。それから柱を建て、梁を渡し、屋根を掛けた。基礎工事が完了し、突如地上現れた螺旋階段を見たときは、木造住宅のいつもの建て方と違って、何か不思議な感じを覚えた。
■家の中で子どもたちがいちばんよく遊ぶのが、この螺旋階段。1階のリビングと2階のフリースペースを行ったり来たりしている。まだ小さな子どもが手すりの隙間から落ちないように、今は安全ネットで巻いている。
■柔らかい光を注ぐガラスブロック。「見本ではもっと光が屈曲して、向こう側の気配は分からないと思っていたのですが、思っていた以上に透けて見えました。もう少し透けない方がよかったかな? とも思いましたが、その辺は凄く微妙なんですけどね」とSさん。

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■リビングと繋がっている光のコート。外に閉じているので、屋外のもう一つのリビングとして使っている。夏は子どもたちが簡易プールを持ち込んで水遊び。天気のいい日は家族で食事をするなど、用途は多彩だ。


 
生活を支える裏方 機能性重視の
1階+倉庫


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■自転車を入れても、ゆったりとした玄関の広さは魅力的。玄関の奥に倉庫がある。Sさんが仕事で使う品物、タイヤやなどを置いている。この倉庫以外に、主に屋内用品を保管する納戸もある。



家の中でいちばん気に入っているところ

「この家でいちばん気に入っているところは?」とSさんに訊ねたら、
「う~ん」と少し考えて、「住み心地の良さかな」と返ってきました。

Sさんが幼少期を過ごした実家の家は、冬になると家の中でも吐く息が白くなるほど寒かったそうです。その実家の家を約20前に建て替えたのですが、断熱性能はあまり改善されず、やっぱり以前と同じように寒かったのです。

そこでSさんは、建築家の加藤さんに、デザインだけでなく住宅の基本的な性能(特に断熱性能)を満たすよう要望しました。

「断熱レベルを上げると、こうも違うものかと驚きました。蓄熱式暖房器を使っているので、ストーブのように直接的な熱は感じませんが、ぜんぜん寒くありません」とSさん。

Sさんの家はオール電化です。完成してからちょうど2シーズン(取材の時点で)過ごしました。月々の電気代は、真冬のピーク時で約5万円で、冷暖房を使わない時期だと数千円です。平均して2万円くらいだそうです。



隠れ家みたいで 妙に落ち着く
2階+ロフト

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■螺旋階段を上ったところにあるフリースペース。左側にバルコニーへ出るドアがある。どうやらSさんには、外の空気を吸いたいと時もあるようだ。小さなスペースだけど、Sさんに欠かせないバルコニーだ。

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■子供室の上につくったロフト。外観の美しさが崩れることを心配したが、このロフトはSさんの寝室として思った以上の機能を果たしている。子供室の上を他の部分よりちょっと高くするだけでつくれたので、考えようによっては安上がりのロフトだ。やはり、つくって良よかった!
■それにしても、たったこれだけの小さなロフトを決めるだけで、外観の美しさから日常の生活のシーンまで思い浮かべるとは―――家づくりとは骨の折れる作業だ。

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■フリースペースから下を見下ろす。右方にガラスブロック、中央に螺旋階段、左方は光のコートへ出る4枚引き戸。

生活を豊かにする味付けのようなもの

ちゃんと寝室はあるのですが、Sさんはいつもロフトで寝ています。「家の中で好きな場所は?」の問いにも、一番は吹き抜けのらせん階段で、その次がロフトでした。隠れ家みたいで、妙に落ち着くのだといいます。

Sさんと建築家の加藤さんは、どこにロフトを設けるかについて随分検討しました。最初の案では、ロフトは寝室の上にありました。道路から見て、手前の子供室より、奥の寝室部分を高くする方がデザイン的に自然に思えたからです。

ところがそれだと、空間的にロスを生みます。最も合理的な場所が、子供室の上なのですが……。Sさんは、シンプルな箱型のデザインが崩れるのを心配しました。形の美しさにとても敏感なのです。

建築家の加藤さんも同じでした。「ロフトって、本当に生活に必要なのだろうか? ハシゴで上ってまで、こんな狭苦しいところへいくのだろうか?」
Sさんと加藤さんは、ロフトのある生活を思い浮かべてみました。

隠れ家のようにわくわくする場所。悲しく辛いことがあったときに逃げ込む場所。やっぱりロフトは、ほんの小さな空間だけど、この家を豊かにするように思えました。

あれこれ思案の結果、子供室の上にロフトを設けることにしました。結果は、大正解でした。外観のプロポーションも、案外いいではないか!

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プレゼンの時の外観。2階の窓が出窓のようになっていた。

CM分離発注と一括請負の違い

「螺旋階段の家」は、CM分離発注方式(オープンシステム)でつくられました。従来の一括発注方式に比べてどのような違いがあるのでしょうか。設計監理を行なった加藤一成さんに聞きました。

―――計画案や基本設計、あるいは実施設計での違いはありますか?
設計の中心は、建て主の思いを引き出す作業です。コミュニケーションが大切です。分離発注でも一括発注でも、設計の作業は何ら変わりません。大事なことは、建て主の思いがちゃんと反映され、どのような業者でも正確に見積もることができる図面を描くことです。

―――工事費を見積もる時と施工業者を決める時はいかがですか?
そこが一番違うところですね。一括発注は、工務店に設計図面を渡し、あとは見積もりの結果を待つだけです。参加する業者の数もせいぜい数社です。分離発注の場合は、業種毎に見積もりを集めます。木造住宅で約20の業種があるので、それぞれ2~3社ずつ見積もっても凄い数になります。仲介を通さず、専門業者からダイレクトに出てくる見積もりを見るのはワクワクしとても楽しいです。

―――それぞれの業種毎の施工業者はどのように決めるのですか?
これまでの施工実績や分離発注に対する理解度、意欲なども参考にして決めます。価格が重要なポイントになるのは言うまでもありません。決定権はあくまでも建て主さんにあるのですが、実際には私とSさんの二人で協議して決めました。

―――工事が始まってからは?
工務店への一括発注は、週1回程度のポイント監理ですが、分離発注の場合はほぼ毎日監理に行きました。最後にSさんへ渡した監理報告書は、『第101回監理報告書』でした。

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設計は建て主と建築家のコラボレーションだ!

CM分離発注はデザイン上の制約を受けるのでしょうか? それともデザインの可能性が広がるのでしょうか? 引き続き設計監理を行った加藤さんに聞きました。

―――設計監理者としての基本的なスタンスを聞かせてください。
考える人とつくる人、つまり設計者と施工者は別にすべきだと思います。設計も施工も一括で依頼すると、どうしても施工業者に都合のいい設計になりがちですし、施工のチェックも甘くなりがちです。

―――このような個性的なデザインはどのようにして生まれたのですか?
Sさんが投げかけたアイデアを、私が形にして投げ返す。それを受け取ったSさんは更に修正を加えて投げ返す。こういうキャッチボールを繰り返す毎にアイデアがどんどん膨らみ、いい建物になっていくのを感じました。

―――大事なのは、建て主と設計監理者のコミュニケーション、ということでしょうか?
設計は、建て主と建築家のコラボレーションだと思います。建築家の独りよがりの設計では、けっしていい建物にはならないと思います。

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思っていたよりずっといい建物になりました

ガラスブロックの大胆な使い方。吹き抜けを貫通する螺旋階段。そして光のコート……。十分に個性的な建物です。満足度はどうなのでしょうか? Sさんに聞きました。

―――もう一度つくるとしたら、どこを変えたいですか?
ガラッと変えてみたいですね。でも、この土地は狭い上に法的な制約もあったので、合理的に追求していくと、ほぼ同じ間取りになって、同じ形になりそうです。

―――では、この状態でやり直してみたいところは?
2つの倉庫が思ったより広めだったので、もう少し縮めてその分リビングを広くした方がよかったかな、と思います。あとやってみたいことはあるのですが、果たして今の状態とどちらがいいか分かりません。案外どちらも正解なのかもしれませんけどね。

―――どういうところですか?
3つあります。1つは光のコートの壁をもう少し高くしてみたいこと。2つ目は模型のように2階の窓が出窓風でもよかったかなと思う点。そして3つ目はリビングの床材をやわらかい針葉樹でもよかったかな、というところです。

―――設計に取り掛かる前、そして設計中、頭の中に描いていたものと実際にできた建物とくらべていかがですか?
思い描いていることを他の人に伝えるのは難しいことです。でも、加藤さんはうまく感じ取ってくれました。私が頭の中であれこれ思い描いていたものより、実際にできた建物の方が、ずっといいと思います。

建築家の加藤さんが言いました。
『家の設計は、建て主と建築家のコラボレーションだ!』

では、建て主のSさんと建築家の加藤さんは、具体的にどのようなコラボレーションをしたのでしょうか。少しプライベートな部分に立ち入り過ぎていないかとも思ったのですが、本音の話の方がこれから家をつくる人には参考になると思いました。

ここから先は、画像も少なく地味な(しぶい)話が続きます。ですが、有益な内容です。あなたは続きを見ますか?

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